大判例

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名古屋高等裁判所 昭和59年(う)86号 判決

本件は,被告人が,昭和58年2月5日午前11時45分ころ,無免許で普通乗用自動車を運転して約40キロメートル毎時の速さで歩車道の区別のない幅員5.6メートルの道路上を進行中,右方の見通しが悪い原判示交差点を直進するにあたり,右方道路から同交差点に進入しようとしている李一相(当時38歳)運転の普通乗用自動車の前部を右前方約20.2メートルの地点に認めたから,かかる場合同車がそのまま同交差点内に進入してくるかも知れないので,直ちに減速操作に移った上で同車の動静を注視し安全を確認して進行すべき業務上の注意義務を怠り,同車の動静を意に介せず,同車が自車を避譲(一時停止して自車をやりすごして)くれるものと軽信したまま前記の速さで進行し続けた過失により,同交差点内で同車左側部に自車前部を衝突させて,右李及びその同乗者佐々木ケサノ(李の内妻で当時38歳)並びに自車の同乗者坂浩次(当時17歳)に原判示の各傷害を負わせた事案であるが,諸般の情状,とくに,本件事故は,被告人が自動車運転者として基本的な注意義務を懈怠したことに起因するうえ,被害者数も3名と多く,とりわけ佐々木ケサノの受傷が全治まで約3か月間を要するという重いものであったこと,被告人は,昭和56年5月ころ自動二輪車の運転免許を取得したものの,その後十数回にわたり交通関係の違反をし,その結果,昭和57年10月14日前記免許の取消し処分を受け,また,同年11月12日道路交通法違反罪(前記取消前における免許停止期間中に自動二輪車を運転したかど)により罰金3万円に,同年12月23日業務上過失傷害罪(昭和56年10月惹起した赤信号看過による事故)により罰金8万円に処せられながら,今回は普通乗用自動車による本件無免許運転に及び,しかも,本件犯行後においても,自動二輪車による無免許運転をして検挙されているのであって,かように被告人の法無視の態度が顕著であることを考慮すると,その犯情は重いといわざるをえない。他面,被害者李においても,その左方の見通しが悪い前記交差点に車道幅員6.7メートルの道路から進入するに際し,左方道路上を前記交差点に向け進行して来る車両の有無や動静を十分確認していなかった点で過失があるとうかがわれること,被告人は少年(犯行時17歳)であり,本件がはじめての公判請求事件であること,父親が今後被告人を指導監督する旨証言していること,自車の同乗者坂と示談交渉をしていないのは,同人の所在が不明であることによるものであること,更に当審に至り,被告人の父親が,昭和59年3月21日被害者李及び同佐々木との間で,人的損害については,被告人が慰藉料として李に60万円を月賦で3回に分けて支払うことで(同日初回分の20万円を支払った。),また,李との間で,双方の物損について,被告人側が7,李側が3という過失割合で各負担することとし,各自の負担部分を相殺したうえで被告人の父親が李に47万8,000円余を月賦で16回に分けて支払うことでそれぞれ示談を成立させ,前記被害者両名から被告人の寛刑を求める旨の上申書が一応提出されたこと(なお,その後被告人側が4月末に支払うべき割賦金23万円((人損,物損の合計))の支払いをせず,5月1日ころ僅か4万円の支払いをしたにすぎない状況にあるため,前記被害者側は,同人側から被告人側に支払うべき義務があるとされた物損の3割分に相当する14万2,000円余を被告人側の了解を得て保険会社から自己の方に振込み入金させている実情であって,今後とも被告人側が約旨に従った履行をしないのではないかとの不安を抱いており,佐々木が前記の上申も取下げたい意向を検察官に述べていることからみて,前記の事情は過大に評価することはできないけれども,少なくとも,各示談が成立し,実際に損害が補填されている限度では,被告人の有利に考慮すべきであること)など,被告人の有利に,又は被告人にとって同情すべき諸事情を十分斟酌しても,被告人を懲役6月以上10月以下に処した原判決の量刑はまことにやむをえないものと考えられ,重過ぎて不当であるとは認められない。

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